発声の「感覚」は変えられる。発声障害は習慣による発声感覚のズレから
2020/09/06
私たちヒトの内部に起こる「感覚」とは、実に不思議なものです。
「感覚」とは、自分の行動に対して起こっている身体の反応です。
脳が、「こういう時にはこうだった」ということを覚えていて、
「習慣による記憶」を再現 しているのです。
少し意識的に声を出さなくてはならない場面に
急激に「発声の感覚」が変わってしまう、という訴えがあります。
場面に対する感情と身体的な反応が、習慣によって結びついているのです。
「ちゃんと声を出そう」と思う場面に、
発声に良かれと思い込んで間違ったことを意図的に実践していると、
「それをしないと声にならない」という感覚を身体が記憶してしまうのです。
生理的なレベルより過剰な力で発声器官に「力を加えて」いる発声と場面とが結びついてしまい
「こうしないと確実に声にならない」という感覚になってしまうのです。
例えば、事務系のお仕事をしているある女性は
普段の何気ない会話なら、全く意識していないので 第一声めがスッと出るのに、
いざ電話応対、となるとうまくいきません。
普段の会話時にはしていない「息をたくさん吸って」、「お腹に力を入れて」という身体の準備が
習慣になっているのです。
「お腹に力を入れる」だけで、喉頭に力が入り一瞬呼気は止まるので、声帯は閉じてしまいます。
そこへさらにハッキリ声を出そうと声帯に二重に力をかけながら話し出してしまうのです。
すると「出だしの母音」の時、声帯が強く締まる、という癖がついてしまっていたのです。
また、声優になって8年目のある女性は、
ハッキリ話すためには「息をたくさん吐く」と養成所で教わってきたので、それを実践してきました。
そして、息を強く吐きながらことばにしてきた結果、喉頭に余分な動作が加わり、
声帯が強く絞まるようになってしまいました。
声を出し続けている間は声帯は閉じて鳴り続けていなければならないのに、
息を吐くことで「声帯を開けよう」とする力がかかってきてしまいます。
開くのか、閉じるのか、声帯開閉に力が拮抗するとき「声が揺れる」のです。
また、声の高さが変化するときやことばの発音によって頻繁に声が裏返ってしまうようになってしまいました。
発声障害の改善のカギは、発声についての「新しい感覚」を知ることにあります。
身体的に何かが間違っている発声は、どこかに負荷がかかり痛みや疲労感、違和感を伴います。
それが正しいかどうかの判断基準です。
身体に全く負荷をかけない発声は、正しい発声なのです。
「新しい感覚」は馴染みが無いため最初は受け入れがたく感じるものですが、
よくよく自分の内部「感覚」を観察してみると分かります。
違和感から脱却できるかどうかの最初のステップは、発声についての「新しい感覚」を知り、取り入れてみることなのです。
それは、可能なことです。
なぜなら
感覚は 日々の習慣 によって変化してゆくものだからです。
そして得られた発声についての「新しい感覚」は、「場面によっても常に変わらない」という
新たな習慣に変えてゆくことが出来るのです。