発声障害は舌の力みから始まり、軟口蓋の逆位相で重症化する
2020/08/14
「舌」という器官に、自らが苦しめられるのは「ヒト」だけです。
私はこれまでに実に多くの発声障害に苦しむ方々の「舌」を診てきました。
機能性発声障害の根本原因の大元は「舌の力み」だということを
医療現場ではほとんど無視していることが不思議で仕方ありません。
また「舌」は「力んでいる」ことが、全く自覚できない器官でもあることが、
発声障害を「謎の病気」と考えたくなる要因でもあります。
舌は、その人の生活の中における「力の入れ癖」で、実にその形にも影響を与えてゆきます。
本来あるべき舌の形状から、どんどん変化します。
開口した時の舌の所見でも、かなり 特異な形状 になっている場合もあります。
ご本人にはそれが普通であり、力を入れているつもりもないのですから、
まさか機能性発声障害の原因になっているとは、はじめは考えにくいと思います。
しかし、あくまでも「舌」は筋肉そのものなので、
「力の抜き方」、「力の伝え方」のコツを知れば、その形状も変えて行けるのです。
この舌という筋肉の塊りは、「食べる」時は大いに動かし使うべきものですが
「声を発する」時、「ことば」を話す時には
ほとんど使わないくらいのだらしなさで何もしない方が良いものです。
分厚い「舌の存在」と、喉頭・咽頭という垂直になった発声器官の位置、構造があるだけで、
ヒトは生理的に「発声」や「言語」を獲得できるのに、
逆に
ことばを邪魔するようになるものは、生活習慣で後天的に生まれた
過剰な「舌先」の力みと、舌の根元である「舌根」の力みです。
余談ですが、オウム がなぜヒトの「ことば」を音声的にマネできるのか、というと
それは、ヒトと オウム の舌の形がよく似ているからだそうです。
あの小さな「分厚い舌」の形状があるだけで、あれだけ音声的に実現しやすいのです。
舌先がとても長くても厚みがないイヌの舌は、オウムほどヒトの音声をマネできないのです。
構造的にイメージしてみてください。
舌は、「喉頭」と呼ばれる 「声帯が入っている筒状の入れ物」の上に
大きく乗っかっている筋塊です。
舌の下片側2か所、舌骨と下顎という土台となる骨に付いていますが、
上側面はU字型の下顎の骨の間を抜け、口内という空間に向かって三次元的に動きます。
舌先が力んでいると、根元側である喉頭側(舌骨)にまで力が及び、
舌全体を固めるのと同じことになります。
また同時に、力のかかっている喉頭の発声は、中にある声帯を通常よりも強く閉めることになってしまうのです。
声帯閉鎖に、別の「支点」が出来てしまうからです。
強く閉まる声帯の初期症状として
頻繁な「声のかすれ」、それが定着してしまうと、
風邪でもないのに声枯れのような「嗄声(させい)」に変化します。
機能性発声障害の初期段階には、必ずこのような声質の変化が起こります。
また、喉頭に力みが起こりやすくなるため、それが刺激となって
せき込み、頻繁に咳払いをしたくなる、誤嚥 などが起こることもあります。
そして、
舌根の力みがあることで引き起こされるのが、「軟口蓋の力み」です。
舌根が力んで舌が奥に引かれることで、軟口蓋が下がりやすくなるのです。
通常、軟口蓋が下がることで、つまり舌と軟口蓋の接触でもって、
声が口に来る出口をふさいでよいのは、ハミングの「ん」のみです。
それが「ん」以外のことば生成時に不意に軟口蓋が下がってしまうという、生理的にはない動きになってきてしまいます。(軟口蓋の逆位相)
その軟口蓋の力みがあるのに、発音できるようにするには、
さらに舌を力ませるという悪循環に陥ってしまうのです。
さらに、「息のコントロール」まで加えてしまう事になると
軟口蓋は、完全に随意的な管理下におかれてしまい、生理的には機能しなくなってしまうのです。