機能性発声障害に効果のある音声訓練とは
2019/10/06
N君(茨城県・30代男性)は、長年自分は「どもり」だと思っていました。
語頭の単音を何回か繰り返したようになることがあります。
その時下顎がカクカクと震えたようになり、顔が引きつることもあります。
苦手意識を持っていることばが来ると、これがより顕著に起こります。
ことばの途中でつっかえたり、途切れたようになることもあります。
一見、「どもり」ということばで説明される症状は、
実は「機能性発声障害」を含んでいることもあります。
第一声目が出にくい・声が途切れる・声が震える・話しているとのどがつまったり、
息苦しさがある、声がかすれる、
など様々な声の異変を感じた場合、
耳鼻科や音声外来のある病院にまずは診察に行かれたと思います。
そして、
ファイバースコープなどで声帯の検査をした際「声帯は綺麗ですね」と言われた場合、
それは全て「機能性発声障害」といえるのです。
声帯という発声器官に声帯ポリープや声帯結節がないのに、なぜ声が出にくいのでしょう。
それは、声の出し方、発声器官の動き方 に問題があるということです。
しかし、そういった現象の多くの原因は、舌や下顎をはじめ、軟口蓋などの
発声器官の力みが合体して起こる、
「発声器官の共同運動」という現象なのです。
どういうことかと言いますと、
本来ならば下顎が全く力まずに口腔内で舌が自由に動いているのに、
舌が力んで動きづらいために代償的に下顎で動かそうとする反応です。
このような 下顎と舌の共同運動化 が起こると、喉頭に力がかかるので、
必然的に軟口蓋が力んで下がりやすくなります。
すると、声が口に来づらいので、息を勢いをつけて吐きながら(または完全に息を止めて)強く声を押し出すようになり、
結果的に 声帯が強く閉まる ようになります。
そして、強い閉鎖強度の声帯(肉声)にレベルを合わせるように、
子音を生成する際、増々 舌は力むようになるのです。
こうして、負の連鎖が進んでいくのです。
N君に 話す際に 口形を大きく動かす ということをやめるようにトレーニングしました。
口形をしっかり作る、ということで顔面筋や顎の関節を余計に動かすことで
逆に舌の動きを固くし、下顎に力が入る原因ともなるのです。
病院などの音声訓練で、口を大きく開けて「あ、い、う、え、お」と
お腹に手をあてて息を吐きだしながら言う練習は、発声障害の方にとってはむしろ弊害になります。
写真のようにほとんど口を大きく開けずとも、下顎と唇を緩め、むしろ
口内の舌の動きを感じながら、声を出そうとせずに、一音一音「うなる」ように
ゆっくりと文章を読んでいきます。
この時、息を強く吐かない、ということも重要です。
すると、むしろ声の鳴りは良くなり、ことばが途切れずに声が滑らかにつながるようになります。
N君も、このほうが下顎の緩みがキープ出来て、声が口に響いていることが感じられると言いました。そして、舌は硬くならない程度にすでに動いているのです。
よく音声訓練で言われている「腹式呼吸が大事です」とばかりに
お腹に力を入れて出したり引っ込めたりする運動も、
実は全くのナンセンスです。全く「腹式呼吸」になりません。
また、
「声を出す」には=「たくさん息を吐く」という昔ながらの方法を一律に指導しているところのなんと多いことか。
これが発声障害の原因になっているといっても過言ではないほどの弊害ぶりです。
発声障害を矯正するには、個人個人に合った、より効果的なポイントを外さずに
ボイストレーニングする必要があります。