ボツリヌス注射をやめたい!ボイストレーニングとの併用
2019/10/01
福岡県からレッスンにお越しのN・Kさんは、郵便局での窓口業務の時期にけいれん性発声障害疑いの症状を発症。
窓口対応の際、喉頭に力がかかる発声のために、声帯に負荷をかけてしまったのです。
窓口にて直接お客様と対応する方に機能性発声障害を発症する確率が高いのは、
「きちんと話そう」とする意識が高いために、呼吸や喉頭に力を加えてしまい、
その結果、声帯が生理的閉鎖強度よりも強く閉じるようになってしまう癖がついてしまうのです。
Nさんもその一人で、事務系のお仕事に部署替えしてもらった今もなおその時の後遺症に悩まされて
います。
本来声帯の一番上部に位置する 靭帯兼粘膜部分が、薄く吸い寄せられ振動するはずが、
声帯下部が閉じるようになるために息も通過しづらくなります。
このような生理的な声帯閉鎖でない発声になると、
次第にことばのつけ方(子音付加)にひと工夫必要になります。
何とか話そうとして身体は無意識に
母音(声帯)と構音(子音)をひとまとめでことばにする工夫してしまうのです。
そのようにして、呼吸も含め軟口蓋などあらゆる発声器官に力みが波及してゆくのです。
本来ならば、母音は息から声帯振動によって生成され続け、その土台があって舌面が自由に動き
子音を付けているという分業体制があるのですが、その分業体制がひとまとめにされてしまうのです。
Nさんは、以前もレイクラブに来校し、ボイストレーニングでけいれん性発声障害の症状を改善しようとしましたが、
あまりにも癖づいた運動回路が強固なために、トレーニングの内容が浮動的になりすぎてしまいました。
そのためにかえって発声器官に力みが入ってしまうという悪循環に陥ったために、
一旦声帯へのボツリヌス注射をすることにしました。
声帯が閉じすぎないよう、強制的に止めてしまいます。
そして今回、ボツリヌス注射を打ってから3か月が過ぎた頃に、
来るべき毒素が抜けてしまう時期に備えてボイストレーニングを行いました。
これから先ボツリヌス注射に頼りつづけ発声を全く変えないのではなく、
正しい発声をつかむために、
ボツリヌス注射を止めるためにボツリヌス注射を利用する、
という考え方です。
これも、場合によっては正しい発声への近道となります。
仰臥位や、写真のように壁にもたれかかり首裏の力を緩めながらの座位でボイストレーニングを行います。
喉頭に全く力をかけずとも声帯は作動し、声帯上部が鳴り、息が声になってゆく感覚をつかんでゆきました。
Nさんはレッスン後言いました。
「声帯が鳴る、という感覚が分かりました。全く力を入れなくても息が声になるんですね。
今までは本当の意味で声帯をきちんと使っていなかった気がします。」
と、身体で掴んだようでした。
私は
「これからどんどん注射の効果が抜けてくる時に頑張って声を出そうとせず、この感覚を思い出してください。」と言いました。
Nさんは「そうですね、早くボツリヌス注射を最後にしたいです。」と笑顔で言い、家族の待つ福岡に帰ってゆきました。