声優を目指す方の発声の注意点
2019/08/30
声優を目指し、高知県から上京したMさん(20代・女性・神奈川県在住)は、
都内の某声優養成所に入所しました。
今年4月から続く基礎コースのレッスンである一人の先生から
「のど声だ!」「もっと大きな声で!」「声量が足りない!」「お腹から声を出せ!」
と言われ続けてきました。
Mさんは お腹に力を入れて声量を出そうと頑張って声を張り上げても、
ずっと同じことを繰り返し言われ続けました。
Mさんはそのことをとても気にして、自分の発声のどこが悪いのか、発声を見直そうとレイクラブにいらっしゃいました。
mさんは真剣に聞いてきます。
「なぜ自分が「のど声」と言われるのかが分かりません。声の大きさだって自分では頑張っているんですけど、いつも小さいって言われるし、、、。声量を上げるにはどうすればいいんでしょうか?」
と、いつもレッスンで先生に同じことを言われるジレンマから、一刻も早くその状況から抜け出したい熱意が伝わってきます。
そんなMさんの発声で分かったことがありました。
それは、
お腹に力を入れすぎているのです。そのために、喉頭や首回りに余分な力が
かかってしまっているのです。
そして、お腹を力ませるのと同時に 息を強く吐き出しながら 声を出しているのです。これは、非常に多くの人が勘違いしていることの典型です。
特に舞台俳優や歌唱系のスクール、声優の養成所に通っていた方に見られることです。
「お腹から声を出す」ということの意味を、身体の至る所に力みを入れて、
息の反動をつけながら発声しているのです。
無意識にお腹や喉頭や首や肩、身体のあらゆる部位に力を入れながら
もっと息をたくさん吐いて、、、
と、増大の一途を辿ります。この地点で物理的な力が加わった声帯は強く閉まるようになっています。
これが初期のころには妙に声の鳴りが良く感じられ功を奏するのですが、、、やがて限界が来ます。通常なら 声帯ポリープや声帯結節 が出来てしまいます。
しかしながら、発声障害 は少し様相が違います。検査で視診しても声帯自体はキレイなことがあります。実はこれが 発声障害の怖さ なのです。
生理的な機能とは違う声帯の開閉の癖 がついてしまうのです。
このように、生理的な発声には元々なかった運動回路を何重にも加えてゆくことにより発声に新たな運動回路が習慣づけられ、
これが発声障害の発端の元となります。
実際、舞台俳優や歌唱系のスクール、声優の養成所等に通っていて、発声障害に陥ってしまったケースは多く、早い方で半年間で声が出せなくなった方もいるほどです。
確かに聴覚的印象では、Mさんの声帯の鳴りは硬く(ある意味「妙な鳴りの大きさ」がある)、息で声を押しながら話すのでことばの明瞭度が下がります。
これを先生は「のど声」と表現しているのです。
今と同じ発声をこのまま続けると、発声障害発症のリスクが高まることをMさんに告げると、Mさんは思い出したように言いました。
「確かに最近声を出す時にとても疲労感を感じますし、首を絞められてるような違和感がある時もあります。」とのこと。
またアルバイト中に時々感じる 声の出しづらさ もあるといいます。
「突然、声質がこもった様に変化して、声を大きく出そうとしても全く小さい声しか出せない時もあります。第一声目が出しにくい感じがする時とかも、、、」
と、発声障害の初期症状のサインが実際起こっていたのです。
Mさんはそれからまずは日常生活においてマッサージや漢方薬などで喉頭周りや身体の凝りの力みを取り除いて筋肉の緊張を下げることを率先するようアドバイスしました。
またレッスンでは声の感覚度を上げる内容を行います。
どういうことかと言いますと、
お腹を使って息を強く吐かずに、逆に 最小限の小さい声 の練習をするのです。
これがむしろ息と声のタイミングが合い、声の感度を上げる ことになり
すなわち、
声帯の呼気変換率を上げる ことになるのです。
発声障害とは、余分な運動回路を幾重にも付け加えてしまった 発声の効率の悪さ ともいえるのです。
自分の声を使って何かを表現したい、と思っている若い方たちにこそ知ってほしいことがあります。声は頑張れば出る、と思わないでください。
表現は土台となる発声が全てです。正しい発声が基礎にあれば全てはいい方向に育っていきますが、そうでないとのちのち大変なリスクが待ち受けています。
「声」は本当にデリケートなものなのです。
Mさんとのレッスンは続いています。