痙攣性発声障害はボイストレーニングが治療の近道
2019/08/01
痙攣性発声障害はボイストレーニングが治療の近道
ボツリヌス注射だけでは治らない発声障害
イラストは喉頭の中にある声帯、という代表的な発声器官です。
上に位置する尖がっている方向が喉頭の前側に当たりますが、なにかなんだかよく分かりませんね?
声帯には、開け閉めするためや伸び縮みさせたりするために、あらゆる向きの筋肉があります。
これら一つ一つを私たちが頭で考えて動かしているわけではありません。
息と連動して開閉し、さらに振動し、また高さや音色が変わりながらなめらかに動いて声を生成しているのです。
ほとんどは生理的に反射的に動きます。しかしながら随意的にコントロールできるものでもあります。
この随意的な発声のコントロールが、発声障害を引き起こすことにもなるのです。
痙攣性発声障害という症状は、奇妙で難解に見えますが、実は非常に単純です。
第一声目が出にくい、話していて声が震える、声が途切れる、のどが詰まる、
または意志に反して突然声が抜ける、声がひっくり返る、声がのどの奥にこもる、などの
話しづらさを伴います。
そして、息が持たない、呼吸が苦しい、などの息の症状も伴います。
この発声障害を発症した多くの方に共通した現象が起こるのは、
悲しいかな、私たち人間の発声器官にそうならざるを得ない必然的なプロセスがあるからです。
発声障害は、二次的に身に着けた発声の癖によるものです。
原因はズバリ、
声帯を生理的強度より強く締める時間が長くあった、ということです。
そしてその強い声帯閉鎖を維持するために 呼吸のコントロール が同時に起こり、
息をたくさん吐くか、もしくは止めるようになります。
さらに鼻腔と口腔を仕切る筋膜弁、すなわち軟口蓋(俗にいうのどちんこ)の開閉の混乱が起こってきます。
こうしてますます
発声と呼吸との連動性のズレ を生じることになってしまうのです。
しかし、自分では 声帯を強く締めているつもりがない、というところがこの障害を難解にさせています。
これには
「大きな感覚に慣らされると、感度が鈍くなる」という「感覚器の受容性」も関連しています。
常に大きな爆音量でイヤホンで音楽を聴く習慣が長期化すると、聴覚が下がることもあります。
常に塩分が多い食事をしていると、味覚的に薄味では満足しにくくなります。
辛いものを食べ続けているとそれに次第に慣れ、もっと辛いのが欲しくなります。
これと同じようなことが発声時の感覚にも起こっているのです。
目標とする声にするのに、あらゆる発声器官を頑張らせる悪循環に入ることになるのです。
ゆえに本人が「脳の神経系の異常ではないのか?」などと考えたり、私は「心の病気なのだ」と思い込んだりしないでください。
発声障害の解決には、癖になっている発声器官の力み を取り除いていくことしかありません。
まずは、発声矯正の専門家によって、
身についてしまった発声時の癖を一つひとつ取り除くためのボイストレーニングをすること。
声帯にボツリヌス注射で声帯を動かなくさせて今までと同じ感覚で発声していると、さらに運動性と感覚の乖離は大きくなってゆきます。そしてさらに効果が切れてくると注射をしなければ発声しづらくて仕方がなくなる。麻薬と同じです。
麻薬を続けていけば、根本解決からますます遠ざかるばかりです。
発声障害の改善にはある程度の期間が絶対的に必要なのです。それを焦ってすぐ治したいと注射や手術に頼ってしまうと、解決から遠ざかるだけです。
残念ながら痙攣性発声障害は、ある日突然風邪が治るようにはいかないのです。
まずは酷使しすぎた声帯をいたわり、発声器官を安静にさせながら、
発声時の感覚を正常化させることが重要なファクターなのです。
しかしある一定の期間が過ぎ、ふと気がつけば、以前よりラクに声が出せる時間が増えている、
ふと気がつくと舌や軟口蓋、喉頭などの発声器官に力みが入っていることに自分で気付くようになる。
そんな曖昧な感じで治ってゆくものなのです。
ですので、付け焼刃でなく、発声障害を根本的に治したいのなら正しいボイストレーニングを行ってゆくことが
結局は一番の近道なのです。